英語圏で To be or not to be(生きるべきか死すべきか)と言えばシェークスピアの「ハムレット」での有名な台詞である。他にも多くの台詞・言い回しなる物が存在する。ここでふと、日本にはこれらに匹敵するものは無いものかと考えたところ、有りました、それは「歌舞伎」です。
 生きるべきか死すべきかの台詞を知っている人は多くても、「お若えの、お待ちなせえやし」を知っている人はほとんどいません。そこでシェークスピアに対抗して日本の名台詞をここに紹介します。ぜひ覚えてみてください。

青砥稿花紅彩画(白浪五人男)・浜松屋店先の場より

<弁天小僧菊之助>
知らざあ言って聞かせやしょう
浜の真砂と五右衛門が歌に残せし盗人の種は尽きねえ七里ヶ浜、
その白浪の夜働き以前を言やあ江ノ島で、年季勤めの稚児が淵
百味講で散らす蒔き銭をあてに小皿の一文字
百が二百と賽銭のくすね銭せえ段々に悪事はのぼる上の宮
岩本院で講中の、枕捜しも度重なりお手長講と札付きに、
とうとう島を追い出され、それから若衆の美人局
ここやかしこの寺島で、小耳に聞いた爺さんの似ぬ声色でこゆすりたかり
名せえゆかりの弁天小僧菊之助たぁ俺がことだぁ!

青砥稿花紅彩画(白浪五人男)・鎌倉稲瀬川の場より

<日本駄エ門>
問われて名乗るもおこがましいが
生まれは遠州浜松在十四の頃から親に放れ、身の生業も白浪の
沖を越えたる夜稼ぎの、盗みはすれど非道はせず、
人に情けを掛川の、金谷を掛けて宿々で義賊と噂高札に
廻る配符のたらい越し危ねえその身の境界も、
最早四十に人間の定めは僅か五十年、六十余州に隠れのねえ
賊徒の張本日本駄右衛門

<弁天小僧菊之助>
さてその次は江ノ島の
岩本院の稚児あがり 普段着慣れし振袖から、髷も島田に由比が浜
打ち込む波にしっぽりと、女に化けて美人局 油断のならぬ小娘も、
小袋坂に身の破れ悪い浮き名も龍の口、土の牢へも二度三度、
段々超える鳥居数 八幡様の氏子にて、鎌倉無宿と肩書きも
島に育ってその名せえ、弁天小僧菊之助

<忠信利平>
続いてあとに控えしは
月の武蔵の江戸そだち、がきの折から手癖が悪く、
抜参り(ぬけめえり)からぐれ出して 旅をかせぎに西国を、
廻って首尾も吉野山、まぶな仕事も大峰に 足をとめたる奈良の京、
碁打と言って寺々や 豪家へ入り込み盗んだる、
金が御嶽(みたけ)の罪科(つみとが)は、
蹴抜(けぬけ)の塔の二重三重、重なる悪事に高飛びなし、
後を隠せし判官の御名前がたりの忠信利平。

<赤星十三>
またその次につらなるは、
以前は武家の中小姓、故主のために斬り取りも
鈍き刃の腰越や、砥上ヶ原に身の錆を、磨ぎなおしても抜け兼ぬる、
盗み心の深緑、柳の都谷七郷(やつしちごう)花水橋の切取りから、
今牛若と名も高く忍ぶ姿も人の目に 月影ヶ谷神輿ヶ嶽、
今日ぞ命の明け方に、消ゆる間近き星月夜、
その名も赤星十三郎。

<南郷力丸>
さてどん尻に控えしは
磯風荒れえ小ゆるぎの、磯馴の松の曲がりなり、
人となったる浜育ち 仁義の道も白川の夜舟に乗り込む舟盗人
波にきらめく稲妻の白刃で脅す人殺し
背負って立たれぬ罪科はその身に重き虎ヶ石
悪事千里というからはどうで終めえは木の空と
覚悟はかねて鴫立ち沢、然し哀りゃあ身に知らぬ
念仏嫌れえな南郷力丸

三人吉三廓初買より

<お嬢吉三>
月も朧に白魚の篝も霞む春の空
冷てえ風もほろ酔いに心持ちよくうかうかと
浮かれ烏のただ一羽ねぐらへ帰える川端で
竿の雫が濡れ手に泡思いがけなく手に入る百両
ほんに今宵は節分か西の海より川の中落ちた夜鷹は厄落とし
豆沢山に一文の銭と違って金包み こいつぁ春から縁起が良いわい

与話情浮名横櫛 源氏店妾宅の場より

<与三郎>
エエご新造さんえ、おかみさんえ、お富さんえ、
ヤサ、コレお富、久しぶりだなア。

しがねえ恋の情が仇、命の綱の切れたのを、
どう取り留めてか木更津から、めぐる月日も三年越し、
江戸の親には勘当うけ、よんどころなく鎌倉の、
谷七郷は喰詰めても、面へ受けたる看板の
疵がもっけの幸いに、切られ与三と異名を取り、
押借り強請も習おうより、慣れた時代の源氏店、
そのしらばけか黒塀に、格子造りの囲いもの、
死んだと思ったお富とは、お釈迦さまでも気がつくめえ。
よくもおぬしア達者でいたなア。安やい、
これじゃア一分じゃ、けえれめえじゃねえか。
なるほど、こいつは一分じゃけえられねえわえ。

出展調査中 鈴ヶ森の場より

<幡随院長兵衛>
お若えの、お待ちなせえやし
<白井権八>
待てと御止めなさりしは、拙者がことでござるかな

桜門五三桐 南禅寺山門の欄干より

<石川五右衛門>
絶景かな、絶景かな、春の眺めは値千金とは
小さなたとえ、この五右衛門の目からは値万両

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