なぜ人はあがるのか

 以前この講座で「プレッシャーに負けないようにしよう。」を掲載しました。試合における精神状態について皆さんの関心が高く、いくつかの意見をいただきました。
 そこで、今回は「あがる」という事をもう少し詳しく考えてみる事にします。

 あがりとは何か
 人間は、ある重要な場面に出会うと、緊張します。何かのステージに立つ、試合などの場合です。そしてその緊張が大きくなり、いわゆる「あがる」状態になってしまうこともあります。この状態では、普段の力を発揮することが困難になります。原因はいろいろありますが、そもそも「あがる」とはどういうことなのでしょう?
 それは、一種の恐怖であるといえます。恐怖に陥って、それが過度になった状態がいわゆる「あがる(あがった)」状態なのです。
 心理学的にいう恐怖とは、ある欲望が阻止されようとするときに起こる、苦痛の予知です。どういうことかというと、「失敗したらどうしよう」「間違えたらどうしよう」等の、これから起こるかもしれない失敗に対する恐怖です。

 あがるとどうなるか
 あがった状態になると、どのような影響があるかを説明しましょう。人間が恐怖の状態に陥ると、まず神経活動にに影響が現れます。神経の情報伝達がスムーズに行われなくなります。そうなると、神経が麻痺した状態になりますから、筋肉が弛緩した状態になり、筋肉が思う通りに動いてくれません。「足がすくんだ」「腰が抜けた」などの状態がそうです。弛緩した筋肉を自律神経系が、もとの状態に戻そうとしますが、その力は弱いのですぐに力尽きてしまします。ですが自律神経系は何度も何度ももとの状態に戻そうとがんばります。これは緊張と弛緩が交互に起こる状態になり、現象としては「手足のふるえ」となって現れます。
 神経活動にに影響がでるということは、筋肉だけでなく脳の神経活動にも影響します。脳内の情報伝達が麻痺すればどのようなことが起こるかというと、数秒前の記憶すら取り出すことができなくなります。こらは「何をしたか覚えていない」「頭の中が真っ白になる」という現象として現れます。

 あがりの根本的な原因
 そもそも「失敗することを恐れる」原因、それは心理学的に言えば「自分の名誉欲・自尊心」だと言われています。大きな試合、多くの観客の前で勝負に負ければ、自分の自尊心が傷つくことになります。いい点数を出したい、試合に勝ちたいという欲望は、失敗を恐れることと表裏一体なのです。
 別の言い方をすれば、大勢の人の前で何か失敗をしてしまうのではないかという恐れ、そしてその影には、自分を認めて欲しいとか、自分の失敗を他人に見られたくない、という気持ちが隠れているのです。
 名誉欲を捨てれば、緊張する事はなくなりますが、同時にそれは闘争心をも制限してしまいます。人間は闘争心を持つことによって自らの技能を向上させているという面を持っているからです。ですから、名誉欲を捨てるということは、向上心をも捨ててしまうことになります。

 あがりのからくり
 緊張しないようにと思うと、よけいに緊張してしまう。リラックスしようと思うとますますリラックスができない。あがりと言うものは、あがらないようにしないようにと強く思うと逆にあがりが増大し、あがってもいいんだ、失敗してもいいんだと思うと逆にあがりは減少するという性質があります。
 あがりやすい人ほど試合などで、「いい点を出そう」「失敗しないように」という考でいると思います。あがりにくい人、度胸のある人ほど、「失敗しても当たり前」的な楽観的思考でいます。実はその楽観的思考こそがあがらないための一番の薬なのです。
 楽観的思考になれば、極度の緊張や不安で悩む事はなくなるでしょう。しかし楽観的な気持ちでいようと思っても、そう簡単に変われないと思います。

 あがりに対する抵抗
 皆さんも、あがらないように、いろいろな方法を試していると思います。 これを心理学的に分類してみることにします。

a)過去における条件の再現
 いわゆるジンクスと言われるもので、アーチェリーに関して言えば、ラッキーカラーを大切にする人が多いです。
b)恐怖心への対抗
 恐怖心に十分対抗するだけの準備をすることです。試合に備えて十分な練習をするとか、技術的な練習をしっかりすることで、安心感を得る方法です。
c)条件の排除・擬似的創造
 普段の練習だと思う とか、観客を野菜だと思うなどが該当します。
d)宗教的依存
 お守りや縁起物に頼ることで、試合前にカツ丼(勝つ丼)を食べるなどの、げんをかつぐのもその一つです。
e)刺激に対する耐性
 緊張に対する耐性を高める。または 過度の刺激に反応しないようにする。試合などの場数を踏む、経験を積むなどがこれに該当します。
a〜eについてはあがらないための方法で、試合が始まり、緊張してすでにあがってしまった状態になった場合はa〜dの方法で緊張をほぐすことは出来ません。
a〜eまでは予防策であって、対応策ではないのです。

 あがりの程度
あがった状態でもいくつかの度合があります。

レベル1 心拍数があがる。
レベル2 足が震える。
レベル3 名前を呼ばれたのに気づかない。

 あがりを抑える方法
 まずあがった状態になったら、すでに手遅れだと認識することが大切です。あがりを無くすのは不可能で、あがった状態を軽減することしか出来ません。
 しかもあがりというものは、あがらないようにと強く言い聞かせると、よけいにあがってしまう。リラックスしようと思っても、ますますあせってしまい、リラックスできないという性質を持ってます。
 ですから、あがりの度合がレベル1や、レベル2程度であれば、あがりを抑える方法として一番いいのは何もしないことです。
 あがっていても、他の人もあがっている。多少緊張した方が調子が良い。この程度の緊張は普通である。と思い込むことが大切なのです。
 このように楽観的に考えることがあがりを抑える最大の方法なのです。
 何度も言いますが、あがりの度合がレベル2以下であれば、何もしないこと。無理にリラックスしようとしないことが、あがりを抑えるのには効果的なのです。
 ではレベル3以上の場合はどうするかというと、アドバイスを与えたとしても本人の耳に届かないので、何を言っても無駄です。少なくとも、この文章を読んだ程度では解決できません。
 唯一アドバイスが出来るとしたら、あがりというのは、突然にレベル3になるわけでは無いので、レベル3に到達する前の段階、レベル2か、レベル1の段階で、リラックスしようとする努力をやめる事です。何度も言いますが、あがりというものは、リラックスしようと思えば思うほどどんどんひどくなってしまうからです。

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