人間はどのように上達するのか?

 訓練する事によって人は技術を学んでいきます。生物がどのように技術を習得していくのかを考えることで、効率の良い練習方法をさぐってみましょう。

 技術が上達するということはどういうことでしょうか?
 技術の上達は、3つの要素から成っています。
 1.知識の蓄積
 2.動作の精度と速度の向上
 3.筋力の増加

 知識の蓄積とは、相手のパンチに対して右によける方法、左によける方法を学ぶことです。適切な判断が出来ることで、最適な行動をすることが出来ます。

 動作の精度と速度の向上とは、狙った所にパンチが出せる。またはパンチをよけるのに10cm必要だとすれば、いかに最小の動き(10cm)でよけれるかです。

 筋力の増加とは、筋肉を鍛えることで、強いパンチが出せるようになります。

 ですから知識の蓄積は、人からや経験を通して学ぶことになり、脳を鍛えることになります。
 そして動作の精度と速度の向上は、脳からの命令をいかに正確に筋肉に伝えるかが問題となります。筋肉をイメージどおりに動かせるかどうかで、神経回路を鍛えることになります。この場合の速度は動作の速度でなく、動作をするまでの時間の事です。
 筋力の増加は、最終的に動く手足のパワーを増加さるので、筋肉を鍛えることになります。
 簡単に言えば、脳、神経、筋肉の3つに分類したことになります。なぜこの3つに分類したかというと、この3つが向上、低下するメカニズムが違うからです。

 まず筋肉から考えて見ましょう。
 腕立て伏せを行う、ランニングをするなどして、筋肉に負荷を与えることで筋肉は増えていきます。もう少し詳しく説明すると、筋肉に負荷を与えることで筋繊維が切断されます。そしてこの切れた筋繊維を修復するときに以前の筋繊維より強く修復します。これを繰り返すことによって筋繊維の1本1本が太くなり筋肉が太くなるのです。
 ここで重要なのは、筋繊維がいつ修復されるかです。筋繊維の大半は眠っている時に修復されます。起きて行動しているときはあまり修復されません。
 例を挙げると、筋肉痛になった時は、1日中筋肉痛ではありませんか? 午前中の筋肉痛が午後から痛くなくなったという事はありませんが、一晩寝たら筋肉痛が無くなったという経験はありませんか? これは筋肉の修復を寝ている間に行っている証拠です。
 ですから筋肉を鍛えようとがんばっても、その日には筋力は強くなりません。翌日になって初めて筋肉は強くなるのです。
 寝ている間に修復できる量には限界があります。ですから適量を超えた運動は、筋肉の修復が間に合わずに翌日にも疲労を残し効率が良いとはいえません。筋肉を鍛えるのには休息も必要だということです。
 そして使わない筋肉は時間と共に徐々に減少していきます。
 筋肉の量によって勝負が大きく変わる競技では、毎日の訓練が大切だといえます。
 下のグラフを見てください。練習中は筋繊維が切断されていくので、使える筋肉は減少します。そして睡眠中に回復しているのです。
 そして練習を中止すると筋肉は徐々に減少していきます。

 知識の蓄積は、主に経験・知識によって得られます。サッカーボールを蹴る時にどこをどのように蹴ると目的の場所に飛んでいくかを学びます。知識が不足で正しい判断が出来ないと、ボールが思った所に飛びません。また体をどのように動かせば良いかを訓練によって学びます。これは本からも学ぶことができます。
 ではこの知識の蓄積は、いつ蓄積されるのでしょうか? 筋肉と違って一日の練習中に蓄積されます。フォームに関して腕を大きく振る、背筋を伸ばすなどを学ぶことで上達します。
 これは記憶と同じなので、学んだすぐから忘れていきます。寝ている時でも忘れていきます。グラフで表すと下のようになります。

 動作の精度と速度の向上は、腕、手、足、指先などが脳からの命令を忠実に再現できるかどうかの問題です。脳と動作する部分との連結と、動作する腕や足その物の神経が重要です。訓練によって腕や足の神経が細かく張り巡らされ、イメージ通りに体を動かすことが出来るようになります。
 これは神経回路が形成されることを意味します。ではこれらの神経回路がいつ作られるかというと、訓練によって形成され、睡眠中に洗練されます。
 どういう事かと言うと、訓練で新たな神経回路が形成されますが、この回路は無駄が多い複雑な回路です。無駄の多い複雑な回路のままでは生物学的に生き残るのが困難です。ですから脳はこの複雑な回路を寝ている間に少し単純化します。これを繰り返すことで回路をより簡単にします。
 これは意識して訓練していることが、そのうちに意識せずに出来るようになる事を示しています。複雑な神経回路が単純化されたことによるものです。
 そしてこの神経回路は記憶と違い、時間と共に忘れるということが非常に少ないのです。記憶をつかさどる脳の部分と、運動をつかさどる脳の部分が違うからです。自転車に何年も乗っていなくても、転んだりせずに乗ることが出来ます。「体が覚えている」という表現を良く使います。

 下の図のは動作の精度と速度の向上に関して、短い練習時間と長時間練習した場合を比較したものです。
 黒い線が上達を示し、青い線が潜在的に上達した程度を示します。

 長く練習したからといって、必ずしもその時間に比例して上達するわけではありません。
 1時間の練習に比べ、2時間の練習では2倍上達するかもしれませんが、5時間の練習に比べ、10時間の練習が2倍上達するとはいえません。1.2倍くらいの差しかないかも知れません。
 1週単位では同じ7時間の練習ですが、毎日1時間練習するのと、日曜日に7時間練習するのでは、毎日練習した方が効率が良いことを知っています。

 昔の練習方法は、訓練によっていつ上達するかを考えていない練習方法が多かったといえます。
 ですから激しい訓練を行ったり、練習時間を増やしたりして、その日の内に成果が出るような練習だったと言えます。
 しかしながら、翌日の上達程度、1ヶ月後の上達程度が必ずしも高いとはいえませんでした。

 重要なのは、上達する時期が鍛えたい内容によって違うということです。これを理解して練習内容を考えることをお勧めします。

 練習中睡眠中中止中
知識の蓄積増加減少減少
動作の精度と速度の向上増加増加変わらず
筋力の増加減少増加減少

 知識の蓄積は記憶と同じですから、完全に覚えるまでは何回か繰り返すのが効果的です。体をどう動かせば良いか、色々試す事もお忘れなく。
 動作の精度と速度の向上は、練習時間にある程度比例しますが、意識せずに行えるようになって初めて身に付くので、少しずつ毎日繰り返すのが効果的です。神経回路の形成が主となるので、どのようにしたいのか目的意識を持つことが重要です。目的意識を持たないと、神経回路が単純化されませんので、意識せずに行えるようになるまでに時間が掛かります。
 筋力の増加は、訓練、栄養、休息のバランスが重要です。激しい訓練をした場合、筋繊維の修復に2・3日かかる事もあります。ですから無理な訓練は逆効果です。しかしながら、負荷の少ない訓練では筋肉は増えません。筋肉の量が勝負を左右するようなスポーツでは、鍛える筋肉をパーツに分けて、3日から7日のローテーションで鍛えることをお勧めします。月曜日は腕、火曜日は胸、水曜日は足、といった具合です。

 近年の練習方法は、練習時間を増やすのではなく、短時間でも効果のある練習内容に変える事で記録を伸ばして来たといえます。
 下の図で言えば、黒い線を上げるように練習方法を変えてきました。ですが、もっと効果が高いのは、青い線で示した潜在的な効果も上げる方法です。

 簡単に言うと、今日中にどのくらい上達するかで判断するのではなく、明日起きたときにどのくらい上達しているか、又は1週間後にどのくらい上達しているかで判断するようにしようと言うことです。
 アーチェリーで言うならば、動作の精度が非常に重要です。ですからフォームの意味などを十分に理解させ練習する。クリッカーを付けてから引き方を訓練するのではなく、初めからクリッカーに対応した引き方をさせるなどです。

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