競技者規定
2003年4月、全日本アーチェリー連盟から次のような通達がありました。
競技者登録停止に関するお知らせ。
松下選手はHOYT USA社との間に契約を結び云々
この行為は日本オリンピック委員会 (JOC)の肖像使用に関する規定及び競技者規定に明確に抵触という理由から15年4月1日〜16年3月31日までの間連盟登録が不可能となりました
今回はこの問題について取り上げてみます。
HOYT USA社のHPにプロスタッフとして松下選手が載っていました。 そのHOYTのプロスタッフのHP
今回問題になったのは、JOCの肖像使用に関する規定及び競技者規定ですが、まずJOCの肖像使用に関する規定は次のようなものです。
日本体育協会スポーツ憲章
本会加盟団体の役員は、常に品位と名誉を重んじ、競技者の規範となるよう行動しなければならない。
〈競技者規程作成のためのガイドライン〉
1.本会の加盟競技団体は、アマチュア登録競技者の保護と支援の責任をもつ立場にあることから、この憲章の趣旨を体し、次の条項に準じ競技者規程を制定するものとする。又、国際競技連盟に所属する競技団体は、その当該国際競技連盟の規則に準拠し、競技者規程を制定するものとする。
2.本会の加盟競技団体は、次の者をアマチュア競技者として登録できない。
(a)いずれかの競技かを問わず、プロ選手又はプロ・コーチとして登録されている者、又は契約している者。
(b)所属競技団体の事前了承なく競技会参加準備又は参加のために、物質的便宜を受けた者。
(c)自らが、自分の氏名、写真又は競技実績を広告に使うことを許した者。ただし、当該競技団体の承認を得ればこの限りではない。これに伴う支払いはすべて競技団体宛であり、競技者本人であってはならない。
(d)本会又は所属競技団体が禁止した競技会に参加した者。
(e)競技に際して、特にドーピング又は暴力行為などによりフェアプレーの精神に明らかに違反した者。
(f)この憲章に違反し、競技者として著しく品位又は名誉を傷つけた者
社団法人 全日本アーチェリー連盟 競技者規定
プロスタッフとして活動する松下選手が、おもに赤色で書いてある部分に抵触したということになります。
マラソンの有森選手のプロ問題と同じ問題にあたります。
競技規則に違反したということで今回の競技者登録停止ですが、問題は無いのでしょうか?
競技規則をみる限り、今回の問題に関して明らかに規則に違反しており、妥当な処置に思えます。
しかしこれには大きな問題がついています。その1つが競技規則の解釈です。
例えば、本連盟の加盟団体又はその会員が、放送座談会その他の行事に出演、参加を求められた場合は、あらかじめ本連盟に届けなければならない。とあります。
解釈の仕方によっては、町内の盆踊り大会に参加してくれと言われた場合、授業参観後の父兄懇親会に参加を求められた場合、学校祭でクラスのイベントに参加を求められた場合、これらすべて連盟に届けて了承を得なければならなくなります。
そんな馬鹿な!と思われる人も多いと思います。この規則の解釈によってはいつでも選手を登録停止にすることが可能になります。
現実問題としては、学校祭や、父兄懇親会に参加したことを理由に登録停止の処置を連盟が行なったとして、裁判所は規則の乱用にあたるとして、その規則に効力が無い(規則が間違っている)、もしくはその規則には該当しない(規則を拡大解釈しすぎている)との判断を下すと思われます。ですが、裁判の判決が出るまでには時間がかかり、その間は登録停止の状態になりる可能性が高いです。
これは拡大解釈した場合の例であり、全日本アーチェリー連盟も学校祭や、父兄懇親会に参加したというような理由で登録停止にはしないと思います。社会常識の範囲で考えていただければ言いと思います。
その他の解釈の例として、スポーツ憲章の中にスポーツによって得た名声を、自ら利用しない。とありますが、就職活動において履歴書の中に○○国体、△位と書いた場合、このルールに違反することになります。
では履歴書の中に○○国体、△位と書いてはいけないのかと言うと、書いても問題ありません。
法律的な話になりますが、条文に書いてあるからといってその条文を守らなければならないかというと、必ずしもそうではありません。連盟と個人、企業と個人など力関係が違う場合、一方的な契約がなされる場合が多く、その条文が無効であると判断される場合が多々あります。例えば会社の規則に、「会社を辞める場合は3ヶ月以上前に書類でその旨を提出、3ヶ月以内に辞める場合は、退職金を50%減額する」と書いてあってもその規則には何の効力も有りません。会社がかってに作った法律的根拠のない規則だからです。そういう契約で入社してもらったのだから、契約上守るべきだと思うかもしれませんが、労働者は立場として弱いので、一方的な契約とみなされ対等な契約とみなされないので、その条文はやはり無効です。
今回もし裁判になった場合、何が論点になるかというと、
1.選手に、その規則を伝えていたか?
2.JOCの肖像使用に関する規定が、法律的に正しいか?
3.競技者規定が、法律的に正しいか?
4.処分が妥当か?(登録停止期間が1年間で妥当かどうか?6ヶ月、2年ではいけないのか?)
ざっと考えて上記の4があげられます。
まず1に関してですが、アメリカ映画で犯人に権利を読み上げるシーンがありますが、それと同じで、選手が知らなかった場合いきなりの登録停止は処分としては厳しすぎると判断されます。全日本アーチェリー連盟競技規則には競技者規定が書いてありませんので、一般の選手は競技者規定を知らないと判断される可能性がありますが、オリンピックに何度も出場している選手に当てはまるかどうかは不明です。
2.JOCの肖像使用に関する規定につてですが、JOCは全ての加盟団体から登録選手の肖像権を預るようになっています、JOC自体が肖像権を活用して、CM出演などで、選手強化資金を調達して加盟団体に還元するシステムで、1979年に始まった、「がんばれ! ニッポン!」がそれにあたります。本来アマチュア選手は、その活動で営利をあげてはいけないのですが、競技団体の管理下ならば、アマチュア選手も商業活動をしても良いとしたのです。(アマチュアは商業活動をしてはいけない。だから選手に肖像権があってもそれでお金をもらうことは出来ない。そこで使えない肖像権をJOCが使ってビジネスを行なう。このシステムをかんがえだしたのは広告代理店の「電通」です。)
個人の肖像権は当然本人にあるべきものであるにもかかわらず、ある競技団体に登録する=肖像権をJOCが一括して管理するというセットになっている所も問題で、法律的にも疑問の残る所です。
そして現在アマチュア規定が廃止されたので、選手の商業活動に制限がなくなったために、肖像権をJOCが管理するという論拠が無くなりました。
厳密な法律的判断ではJOCの肖像使用に関する規定は違法と思われますが、その規定は選手強化費を得るためなので、例外的に認められると判断される可能性もあります。
宝くじと同じで、宝くじも一種のギャンブルなので違法性が高いですが、その収益金が公共事業に使われる為例外的に認められています。
3.競技者規定も同様で、現在アマチュア規定が廃止されたので、選手の商業活動に関しての制限を行なう根拠が明確ではありません。
4.処分が妥当かどうかについてですが、これは上記の判断によって大きく変ってきます。競技者規定が法律的に正しい場合はプロ選手、プロコーチとして登録又は契約している限り永久に連盟登録は不可能です。
オリンピック選手以外にはあまり関係の無い肖像権の問題ですが、参考までに肖像権の使用基準を載せておきます。(使用基準は時と共に変化しますのでご注意ください)
肖像権の使用基準
1.選手個人が商業的な目的で映像や写真を使用できない。
2.テレビ、イベント、広告等に選手個人の意思で出演したり掲載することはできない。
3.商業目的でない報道の場合は、テレビ、新聞、雑誌等への出演及び掲載は差し支えない。
4.全日本アーチェリー連盟がアーチェリーの普及・発展のために企画や許可した場合は可能です。