数学からみた効果的な練習方法

 今回は効果的な練習方法を数学の面から考えてみましょう。
 テレビを見ながら勉強をする場合、テレビの内容も勉強も頭に残りにくいです。
 テレビを1時間見て、勉強を1時間した場合と、テレビを見ながら勉強を2時間した場合を考えると、どちらも同じ効果が得られそうですが、実際はテレビを見ながら勉強を2時間した場合の方が効率がとても悪いです。

 これを数学的に検証してみましょう。
 まず人間は、同時に2つの事が出来ません。
 AとBの2つのテレビを同時に見る場合もあるかもしれませんが、同時に2つを見ているのではなく、一瞬Aを見て、別の一瞬にBを見ているのです。
 これをトランプに置き換えて考えてみます。
 裏向けたトランプが100枚あります。その一枚一枚めくっていきます。その時に次に出るトランプのカードは赤(ハート・ダイヤ)か、黒(クローバー・スペード)かを予測します。その予想が当たった場合の得点を1点とします。
 これは、赤の行動と黒の行動の2つを同時にした場合に、何かを得ようとして行動と予想が一致した場合にそれが効果として得られる事をモデル化したものです。
 赤のマークが50枚、黒のマークが50枚の場合に普通の人間はどのように行動するかというと、赤の予想を50回、黒の予想を50回の割合で行います。
 その結果、赤の予想が的中する割合は、(赤のマークが出る割合=50%)×(赤のマークと予想する割合=50%)×(試行回数=100回)=0.5×0.5×100=25点
 同様に黒の予想が的中する割合は、(黒のマークが出る割合=50%)×(黒のマークと予想する割合=50%)×(試行回数=100回)=0.5×0.5×100=25点
 赤の的中と、黒の的中の合計は、25点+25点=50点となります。
 この50点が同時に2つの行動をした場合(テレビを見ながら勉強を2時間した場合)に得られる効果です。

 では1つに1つの行動をした場合(テレビを1時間見て、勉強を1時間した場合)に得られる効果はいくつでしょう。
 行動が1つしかありませんから、出現するマークは1種類です。当然予想も1種類です。
 つまり、赤のマークが出る割合=100%、赤のマークと予想する割合=100%、試行回数=50回(赤のマークは50枚)
 黒のマークが出る割合=100%、黒のマークと予想する割合=100%、試行回数=50回(黒のマークは50枚)
 赤の的中、1(=100%)×1(=100%)×50(回)=50点
 黒の的中、1(=100%)×1(=100%)×50(回)=50点
 つまり赤の的中と、黒の的中の合計は、50点+50点=100点となります。
 この結果から分かることは、何かを同時に行った場合と、分けて行動した場合では効果が4倍も違うということです。

 これは行動が2つに完全に分けることができるなら、それを分けて学習した方が効果的だということを示しています。
 しかし現実にはそれらを分離することが難しい場合がほとんどです。

 今までの検証は2つの行動を均等に扱ってきましたが、2つの割合が違う場合はどうでしょう?
 競技によって、技術が重要な場合と、筋力が重要な場合があります。
 技術の割合が70%、筋力の割合が30%の競技があったとします。
 つまりトランプ100枚の内、赤のマークが70枚、黒のマークが30枚の場合です。
 行動心理学によれば、この場合に人間は赤の予想を70回、黒の予想を30回という割合で行います。
 赤の予想を50回、黒の予想を50回の割合で行った場合と比較してみましょう。
 赤の予想を70回、黒の予想を30回の場合、赤の予想が的中する割合は、(赤のマークが出る割合=70%)×(赤のマークと予想する割合=70%)×(試行回数=100回)=0.7×0.7×100=49点
 同様に黒の予想が的中する割合は、(黒のマークが出る割合=30%)×(黒のマークと予想する割合=30%)×(試行回数=100回)=0.3×0.3×100=9点
 赤の的中と、黒の的中の合計は、49点+9点=58点となります。
 赤の予想を50回、黒の予想を50回の場合、赤の予想が的中する割合は、(赤のマークが出る割合=70%)×(赤のマークと予想する割合=50%)×(試行回数=100回)=0.7×0.5×100=35点
 同様に黒の予想が的中する割合は、(黒のマークが出る割合=30%)×(黒のマークと予想する割合=50%)×(試行回数=100回)=0.3×0.5×100=15点
 赤の的中と、黒の的中の合計は、35点+15点=50点となります。
 予想する色の割合を変えた方が得点が高い(58点と50点)ことが分かります。
 人間は本能的に多く出現するものを多く予測し、出現の少ないものは少ししか予想しないようになっているのです。
 この方法は良い方法ではありますが、最善ではありません。

 赤のマークが70%の割合で出るのなら、すべての予想を赤で行った方が得点は高くなります。 赤の予想を100回、黒の予想を0回にするので、赤の予想が的中する割合は、(赤のマークが出る割合=70%)×(赤のマークと予想する割合=100%)×(試行回数=100回)=0.7×1.0×100=70点
 同様に黒の予想が的中する割合は、(黒のマークが出る割合=30%)×(黒のマークと予想する割合=0%)×(試行回数=100回)=0.3×0.0×100=0点
 赤の的中と、黒の的中の合計は、70点+0点=70点となります。

 具体的な例を挙げてみましょう。
 近射をする事で、得られる効果は何が一番大きいかと言うと、フォームの修正・強化です。
 近射でフォームを確認しながら的を狙うという2つの事をした場合、フォームの修正・強化の効果が半減、もしくは近射をする意味が無い状態になります。
 ですから近射の場合は、「狙う」「矢を中心に当てる」という効果を一切排除してフォームだけに集中するのです。
 なぜならそれが最も効率的だからです。

 人間という動物は2つの選択があった場合には、その割合に応じて選ぶ割合を変えますが、
 2つの選択の内、一方しか選択しない種類の動物も数多くいます。

 よくスポーツは「心(精神力)・技(技術力)・体(筋力)」の3つを鍛える事が重要だと言います。
 この3つを鍛える場合、どのような練習方法が効果的でしょう。
 あるスポーツの成果が100とした場合、その100に対する影響の大きさを、心:1/3(=33.3%)、技:1/3(=33.3%)、体:1/3(=33.3%)と均等に必要ならば、どのような割合で練習をしても同じですが、あるスポーツの結果に与える影響が、心:10%、技:20%、体:70%の割合ならばどうでしょう。
 練習に心を10%、技を20%、体を70%の割合で練習した場合、得られる効果は、心:10の10%、技:20の20%、体:70の70%なので、1.0(=10×0.1)+4.0(=20×0.2)+49.0(=70×0.7)=54.0になります。
 ではすべての練習を体に費やした場合はどうなるかというと、心:10の0%、技:20の0%、体:70の100%なので、0(=10×0)+0(=20×0)+70(=70×1.0)=70.0になります。

 もし競技の結果が、単純に「心・技・体」の足し算で効いてくる場合、しかもその割合が、「心(3)・技(3)・体(4)」であるならば、心と技を捨てて、体だけ鍛えるのが一番効果的です。
 しかし、「心・技・体」が、足し算で無く、掛け算で効いてくる場合などは条件が変わってくるので、必ずしも1種類だけ鍛えるのが効果的とはいえません。ですが、影響の少ない部分に多くの時間と労力を掛けるのは、ハッキリいって無駄です。
 心:10%、技:20%、体:70%の割合で結果が出る競技で、今の自分が各々その半分まで達成しているとします。
 下の左図の状況です。
 この時に訓練によって、その能力を10%アップできるとしたらどれを選びますか?
 もちろん全体の70%を占める体を増やすのが一番効果的です。(下の右図参照)

 さて、アーチェリーの場合「心・技・体」の割合はどのくらいでしょう。
 明確に出せるものではありませんが、1つの目安として、こう考えてみてください。
 精神力が2倍になったら、得点は何点上がりますか?
 技術力が2倍になったら、得点は何点上がりますか?
 筋力が2倍になったら、得点は何点上がりますか?
 この上がった得点の割合がそのまま、「心・技・体」の割合と考える方法です。

 もう1つの考え方もあります。20年前と比べて、一般のレベルが上がりました。
 それは精神力が20年前の人と比べて、どれだけ上がったからですか?
 それは技術力が20年前の人と比べて、どれだけ上がったからですか?
 それは筋力が20年前の人と比べて、どれだけ上がったからですか?
 この上がった割合がそのまま、「心・技・体」の割合と考える方法です。

 そして一番割合の大きいものを、その割合以上に練習することが上達の近道です。  

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