アーチェリーの記録向上は科学の進化か?

 ワンピースボウから、テイクダウンボウ、カーボンアローの出現と共に記録も更新されてきました。
 これらの道具の進化が、記録の更新をもたらしたことは間違いの無い事実です。
 しかしながら、更新された記録のすべてが道具進化によってもたらされた訳ではありません。
 射形の変化、練習効率のUPなどの要素も忘れてはいけません。
 水泳の記録の変化も、水着だけでもたらされた訳ではありません。日本女子選手の金メダル第1号になった前畑秀子選手の200m平泳ぎの優勝記録は、3分03秒6。同じ種目でバルセロナ五輪の金メダリスト岩崎恭子選手の記録は2分26秒65です。水着の進化だけで37秒も記録が短縮されるはずも無く、仮に前畑秀子選手が現代の水着を着たとしても、3分03秒6が3分の壁を越えることは難しかったとおもわれます。
 では何が変わったかというと、泳法そのものが変わりました。まずアメリカの C.ジャストレムスキーがハイピッチ泳法をあみ出し, G.プロコペンコを中心とした旧ソ連の選手がストロークの大きい豪快な平泳を完成させ、さらに田口信教選手が水中深くけり込む田口式キックをあみ出しました。いま平泳ぎといえば、ラジオ体操のように手を先端として両腕を大きく回すのでなく、手は前方から胸の方へ動かすようになりました。
 その結果、平成16年度 全国中学校体育大会の女子200mの優勝タイムは2分29秒21、一番遅い記録でも2分47秒22です。大会に出るための標準記録でさえ2分40秒前後なので、前畑秀子選手は大会に出るための予選の段階でアウトです。
 スキーのジャンプにおいては、ジャンプして腕をグルグル回して飛んでいました。
 野球やサッカーの練習においては、水を飲むと飲んだだけ汗が出るから飲むなと言われていました。現代においては、汗で減った水分を補うことは常識になっています。
 特訓の代名詞であった、手を後ろに組んでジャンプするうさぎ跳びは、きつい運動の割にはトレーニングの効果が少なく、今ではほとんど行われていません。昔は「肉体を酷使する訓練=効果が高い」という間違った認識をしていたからです。
 千本ノックという練習方法が流行った時代ありましたが、根性と精神力の名のもとに特訓を続けることは、時間の無駄、肉体の疲労、ケガや事故の発生を伴い、しかも技術の向上に役に立たない無駄な練習とわかり、これも過去の遺物となっています。

 アーチェリーの場合は道具の進化の他に何が変わったのでしょうか?

1.チューニングの方法が変わりました。
 昔は矢を真っ直ぐ飛ばすのにどのようにチューニングしたらいいかの基本となる方法が少なく、各人の経験と勘に頼っていましたが、今ではペーパーチューニング、ベアシャフトを使ったチューニング方法などが確立されてきており、チューニングのマニュアルができた事。

2.フォームの変化。
 昔はストレートスタンス、センターアンカーが基本でした。今でも基本ですが、昔はオープンスタンスや、サイドアンカーは邪道扱いされることが多く、合っていないスタンスやアンカーを矯正させられた事もあったと思います。
 フォームを8つに分割して教えた射法八節から、スタンスからフォロースルーまでを1つの流れとした射法、いわゆる韓国式への変化の効果も高いと思います。

3.近射が増えた。
 フォームの重要性が認識されて、距離を射つ事よりも近射でフォームをチェックすることが多くなったと思います。
 昔の選手も近射の重要性を認識していたと思いますが、その重要性の認識が大きくなったと思います。
 近射が増えたことで、短い時間でたくさんの矢を射る事ができるようになりました。
 (水泳の世界においても、水中眼鏡のなかった時代は目に負担がかかり、1日に泳げる量が少なかったですが、水中眼鏡の発達により練習量そのものを増やすことが出来ました。)

4.指導者が増えました。(アーチェリー人口の増加)
 アーチェリー人口の増加により、経験者が若手の指導にあたる機会が増えました。
 この事により質の高い指導が増加したと思います。

 他にもいろいろ挙げることが出来ますが、一番感じることは、気合と根性、精神力の時代から科学の時代になったということです。
 スポーツ以外でも同様です。将棋の世界では棋譜(将棋の駒の動きをを記録したもの)の勉強のため、正座して手書きで棋譜を写すのが伝統でしたが、その時間が勿体ない、正座しても実力とは関係ないと、コピー機で印刷し、パソコンで管理する集団が出てきました。初めはチャイルドプレイ(児戯)と陰口を叩かれていましたが、そのグループはメキメキと強くなり、その中の一人が羽生善治(史上初の七冠王)です。
 20年前の先人たちから記録が向上したのは、昔の人に比べて気合や根性、精神力が現代人の方が勝っている訳では無く、道具や理論が発達した結果です。
 新しい理論や方法は、そのときのトップの人からは生まれません。なかなかトップに勝てない2位集団の中から生まれます。
 スキーのV字ジャンプ、スケートのスラップスケートを考え出したのもその時のトップの人ではありませんでした。
 記録の向上として、道具と練習方法の進化を理由とする人はいても、根性や精神力の向上を理由にする人はまずいないでしょう。ですがこの事を本当に理解している人は少ないと思います。なぜなら自分の記録更新に練習方法の改良を考える人はあまりいませんが、精神力や集中力を鍛えようとしている人は多いからです。精神力や集中力がまったくの無駄とはいいませんが、精神力や集中力を鍛えるより、効率のいい練習方法を考え実行した方が効果ははるかに大きいのに、精神力や集中力に多くの労力を費やし、練習方法の改良には少しの労力しか費やしていない人が多いからです。
 韓国の強い理由も精神力ではなく、コーチングシステムだといわれています。ですが10年後にはもっと効果の高い練習方法が確立されているかも知れません。そしてその練習方法を考え出すのはおそらく韓国ではなく、韓国に勝てない2位以下の国のどこかだと思います。出来ればその考案者が日本人であるといいのですが・・・

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